電通 赤字が過去最大の800億円に
浅川です。
白坂先生に、今日の「なぜ」を解説していただきます。
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電通 赤字が過去最大の800億円に
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> 電通グループは12日、2019年12月期の連結最終損益(国際会計基準)が808億円の赤字(前の期は903億円の黒字)になる見通しだと発表した。従来予想の62億円の黒字から一転して赤字となる。(2020年2月13日付『日本経済新聞』より一部引用)
■電通はなぜ赤字を出したのでしょうか?
まず、電通と聞いて、何の会社だと思いますか?
・「広告代理店」?
その通りです。が、実は電通の売上のうち、国内の広告代理業はわずか40%に過ぎません。「電通=日本最大手の広告代理業」というイメージですが、電通にとってはもはや本業ではありません。
残りの60%は【海外でのM&Aの売上】です。電通は、海外のいろいろな企業を買収して合併し、どんどん大きくしています。今回、電通の最終赤字は800億円と発表されましたが、これは日本国内の本業の話ではなく、M&Aの決算書で「減損処理」をして、800億円の赤字が出たという話です。
■「減損処理」とはどのようなことでしょうか?
今回は会計の話になりますが、キーワードは、【のれん】という言葉です。決算書の中に、「貸借対照表」があり「のれん代」が出てきます。この意味がわからなければ、なぜ800億円の赤字が出たのかがわからないので、まずはのれんについて説明します。
のれんは、ラーメン屋さんにもありますが、カタカナで言えば【ブランド】です。つまり、一言で言えば、次のことです。
・【のれん代=ブランド代】
たとえば、海外のA社の純資産が100億円の場合、いくらで買うでしょうか? 100億円でしょうか?
そう思えるかもしれませんが、企業のM&Aの場合、たいていはもっと高く買います。帳簿の価格は100億円だけれども、電通は150億円で買います。つまり、次のような形です。
・A社の純資産:100億円
・A社のブランド代=のれん代:50億円
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・電通はA社を150億円で買う
電通が買うと、A社の企業名と、ブランド力を手に入れることができます。それで、のれん代を加えて150億円とします。ただし、そのA社の業績が後で悪くなると、「このブランド代は何なのか?」となりますので、いつかのタイミングで赤字に計上しなくてはいけません。
それを、「のれん代の減損会計」と言います。もし、100億円の会社を150億円で買って、その会社が順調であれば問題ありません。順調ではなく、うまく行っていなかったら「ダメな企業を買ってるじゃないか」ということで、のれん代を赤字に計上しなくてはいけません。
今回のニュースは、この会計が累積し、一気に800億円の赤字を出さざるを得なかったということです。つまり、電通は日本国内の広告代理店からスタートしましたが、今や海外のM&A企業であり、そのM&Aがうまく行っていないというニュースだと言えます。
■電通の「のれん代」は?
電通は、800億円を「のれん」という形で減損処理をしましたが、まだあと7,800億円ののれん代を持っています。それだけたくさん買っている、ということです。全部で百何十社とあります。それらの企業がまたうまく行かなくなれば、電通は減損処理をしてはいけなくてはいけません。すると、一気に帳簿上の赤字が出てきます。のれんというのは、決算書でいえば、いわゆる「時限爆弾」とも言えるのです。
相手の企業がうまく行けば問題のない話です。100億円の企業を150億円で買い、その企業が200億、300億、400億とうまく行ったのであれば、問題ありません。でも、うまく行かなければ、「ブランド代というマイナスを買った」と捉えられます。電通は今、7,800億円の時限爆弾を抱えている、というように考えられると言えます。
一般的に、投資家は買った株が上がってほしいですよね? 複利で最後にグッと上がってくれると、私たちの資産も10倍以上に上がっていきますが、急に上がる企業の中に、M&Aの企業はものすごく少ないのが現状です。
とはいえ、M&Aでうまくいく会社がゼロではありません。「M&Aをしているからダメ」とは断言できませんが、かなり成功確率は低くなります。実際に、M&A自体の成功確率はどれぐらいだと思いますか? 答えは、「10%」です。100件M&Aが行われたとき、10件うまく行けば十分だと言えます。
M&Aは、一言で言えば「企業と企業の結婚」です。まず、両社の価値観が違います。単にお金を出して買えたとしても、社員さん、従業員さんたちからすると、「今度、あの企業の人たちと働くの?」と感じられます。さらに、目標も違えば、大事にしている理念も違います。その中で、買った後でうまくいくケースはすごく少ないのです。
結局、M&A自体の成功率が低いので、M&A中心で売上高を上げている企業の成功確率もやはり低いのです。も
ちろん、10%はうまく行っていますので、「M&A=ダメ」ということはありませんが、M&Aで売上が右肩下がりだという企業は、要注意です。
意外にも、地道に本業をコツコツやっている企業の方が、ぐっと右肩上がりに成長していきやすいものです。たとえば、次のような企業です。
・ユニクロ
・ニトリ
・ワークマン
このように、本業をコツコツやり続けている企業の方が、私たち投資家からすると、うまくいくと判断しやすいのです。
M&Aは「この企業を買いました」「売上が増えました」と、いう形ですごく早いのですが、その後の成功確率が低く、「のれん」という時限爆弾を抱えることにもなります。ですから、今回のように「800億円の赤字です」というニュースが出てくることもあるのです。
これからM&Aは増えていきます。M&Aは、短期的な売上のためには一番簡単な方法ですが、長期的な成功と言う意味では一番難しいといえます。買うのは簡単ですが、買った後に、本当に成功させられるかは別の話だからです。そこを注目して見る必要があると言えます。
■今日のまとめ・・・・・・・・・
電通の売上は、60%が海外のM&Aによるものです。今回赤字を出したのは、電通が買った企業の業績がよくなかったため、会計上の「のれん」を出したからです。M&Aの案件でうまく行くのは全体の10%にとどまります。電通はM&Aにより7,800億円の「のれん」がありますが、ブランド代というマイナスを抱えているとも言えます。今後、M&Aをした後にうまく行くのか、注目する必要があります。
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貴重な時間にて文章をお読みくださり感謝しています。
ありがとうございます。
それでは、また。
浅川淑子(あさかわよしこ)
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